「農業で生きていく」
新規就農目指して修行中

地域おこし協力隊 甲斐道仁さん

日本の農業は、少子高齢化及び過疎化により、持続可能な農業の観点から大きな転換期を迎えています。特に担い手が不足している地域においては、農家の担い手の確保と育成、栽培技術の継承など、次世代を担う農業人として活躍が期待されている中、旅行で訪れた串間の美しい自然が忘れられず、新規就農を目指して串間市地域おこし協力隊に着任した甲斐さんに、農業を目指したきっかけや実際の農業研修、今後の目標についてお話を伺いました。

串間市地域おこし協力隊
甲斐 道仁(かい みちと)さん

宮崎県宮崎市出身。高校卒業後、ファッションを志し、東京の服飾専門学校へ卒業後はメンズカジュアルウェアブランドでの企画生産や、某インターナショナルブランドでの生産管理に従事。東京で過ごす時間が宮崎で育った時間の18年を越した事を契機に今後について見つめ直し、2020年1月に神奈川県から串間へ移住。現在、串間市役所 農業振興課 農政企画係に所属し、地域おこし協力隊として着任5か月目。

わたしの人生を変えた旅

数年前に九州一周旅行をして、その時に初めて串間を訪れました。宮崎県出身なので県内は大体行ったことがあるのですが串間にはこれまで来たことがなく、訪れてみると串間は他の県内の風景とは一線を画す強い魅力を感じました。
九州一周旅行を終えても串間の美しい自然が頭の片隅にずっと残っていて気になっていました。他でも素晴らしい土地はいくつも訪れましたが、その感情とは違っていたことが気になり、次は串間に来ることを目的とした旅行を決行しました、その時に自分はここに住みたいんだなと思い、串間に定住するため自分に出来る事、やりたい仕事を考えている時に農業について真剣に向き合い、調べている内に農業に携わる魅力・これから求められる必要性・やりがいに気づいたことがきっかけです。

串間の土地と農業に魅了

農業について調べている内に農業の面白さをどんどん感じて、初めは串間に移住する事が目的でしたが、気づいたら農業をする事が第一優先に変わっていました。しかしながら串間にツテも知り合いもなく、農業経験も無い完全素人が新規参入者として新規就農することに不安や壁も感じていました。だから過剰な期待は持たず、出来る事なら串間で就農したいが、叶わないならJA宮崎のバックアップで新規就農者を育てるシステムがあるので、それを活用して宮崎県内のどこかで就農しようとも考えていました。そんな時に串間市で地域おこし協力隊として新規就農者募集があり、渡りに船だと思い応募したことがきっかけです。

農業の奥深さを肌で感じる毎日

これまで経験したこと無い事ばかりで、全てが未経験なので何をするにしても毎日が新鮮で充実しており、楽しみながら勉強しています。色んな農家さんなどで串間の様々な作物を研修させてもらってますが、基本的な事や見当違いな質問でも、皆さん真剣に優しく教えてくださいます。また同じ作物で目指すゴール地点は同じでも、各農家さんで考え方や、やり方が違っていて、ほんの些細な作業の一コマでも日々真剣に取り組んでいるからこその改善や経験則なので、とても勉強になる日々を過ごしています。

畑ときどき、サーフィン

平日は朝6時半~7時に起きて出勤準備をしたら、住んでる家の敷地内にある畑や苗の水やりと観察をして出勤。研修先によって作業のスタート時間が8~9時と違っています。協力隊の制度上1日の勤務時間が7時間勤務になるので時間内で研修作業を終えて、16時頃に市役所に戻り、日報などのデスクワークをして退勤しています。その後は自宅の畑の手入れを、季節で日の長さが違いますが19時~20時くらいまで。休日は畑や庭の手入れをしたり、趣味がサーフィンなので恋ヶ浦など串間のサーフポイントでサーフィンを楽しんで過ごしています。

サステナブルな暮らし方

農業として特別サステナブルを意識してませんが、ゆくゆくはハウスピーマンをメインの作物に考えているので経営面で考えると水・電気・重油の使用量がコストの大部分を占めてくるので、いかに圧縮できるかがエネルギー消費量を抑えての経済活動としてつながると思います。また遠回りですが農業を志すうえで質の良い、美味しいモノを作りたいですし、作物に病気などを発生させないようにし秀品率を上げることも、食べ物を大事にするって意味ではフードロスしない・させない取り組みかと思います。
暮らしの中でも特別意識はしてませんがサステナブルの気運が高まる前からどこの産地で作られた食べ物なのかは気にしています。串間に来てからは特に地産地消の割合が格段に高くなってますね。単純にこっちの食べ物は美味しいですし。それとコンビニの利用はほとんどしなくなりました。以前から利益優先の過剰サービスが当たり前になっている今の日本に疑問を感じていたので、この流れは歓迎ですね。

農業×ICT

まずは栽培技術と経験を身に付けて土や気候などの風土を知ることが優先ですが、これからの農業をやっていくためには注視しないといけないと思っています。 IoTを使ったデータログ分析や地域内での圃場データの共有など既存の技術は有効活用したいと思います。サステナブルな農業にもつながりますが、重油は直接的な枯渇性資源ですので使用量の大幅な削減又は代替できる機器に興味は高いです。やるやらないは別として農地に作るビニールハウス型の植物プラントや進化を続けているLED栽培技術は興味深いので視察してみたいですね。

農業を学び 農業に生きる

今後の新規就農に向けて、今はただただ経験を積んでいきたいです。土の性質・作物の育ち方・その作物に寄って来る虫やウィルス・肥料や防除薬について・雑草の事・気候との関連性など、挙げればキリがないほど学ぶべき事は沢山あります。見て経験してみないと判らない事だらけです。

未来の農業人へ

今の日本の農業従事者の大部分は55歳~70代で平均年齢は66.8歳です、更に40代以下の従事者は日本の総人口から考えればほとんどいません。自分はこの数字を見て危機感を感じました。10年後、20年後に私たちはスーパーでこれまでの様、当たり前に国産の食べ物が買えて食べれているのでしょうか?満足出来ているのでしょうか?水耕栽培・LED栽培などの技術の進歩により植物プラントが進み工業化しビジネスの気運も高まることで安定供給にまい進していくでしょうが、それは人あってこそだし、今はその道筋が正解とも言えません。自然が好きで農業に興味があれば踏み出すのは今だと思います。