串間で農業人になるために
ピーマン栽培の武者修行へ

地域おこし協力隊  甲斐道仁さん

串間市地域おこし協力隊として着任2年目は、実践的にピーマン栽培の経験を積むため、宮崎県立農業大学校の栽培施設を利用できる「みやざき農業実践塾」の経営実践コースで武者修行しています。修行に踏み切った背景や実際に塾生となって感じたことなどを伺いました。

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地域おこし協力隊
甲斐 道仁(かい みちと)さん

2020年1月に宮崎県串間市へ移住し、串間市地域おこし協力隊として串間市の農家さんの下で農業技術の習得に努め、2021年7月から「みやざき農業実践塾」でピーマン農家を目指して修行中です。

実践的な研修制度の活用

みやざき農業実践塾では、施設園芸のキュウリ・ピーマン・ミニトマト・イチゴと露地野菜の栽培研修を受けることができ、ハウスは4a(400m²)を一人で受け持ち、栽培することができます。その中で自分はピーマンを栽培しています。

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みやざき農業実践塾の経営実践コースに入塾した理由

ここに来る前の1年間は、串間のピーマン農家で研修をさせていただき、色んな事を学ぶことができました。植物生理学、栽培管理や環境制御、病害虫・気象との関連性から、ピーマン栽培をするにあたって1年間をどのようなスケジュールでどう作業しているのか、また収穫作業のやり方など。そして、同じ作業でも農家ごとの効率的なやり方や手の抜き方のコツなども学ぶことができました。
多くの知識を得て五感から吸収しましたが、どうしても出来ない大きな事がありました。それは"家主としてどう育てるか責任を持って考え、日々の判断をしながら栽培すること"です。これをするためには自分が家主にならないと出来ないことなので、要は就農1年目にぶっつけ本番でやってみてトライアンドエラーで修正していく事になります。就農したら経営=生活ですので失敗しましたでは話になりません。就農1年目からそれなりの動きや判断と成果を出していく為のシミュレーションを行う場として入塾しました。

ピーマンを選んだ理由

茨城・宮崎・高知・鹿児島の4県でピーマン生産量全国シェアの約60%を担っており、パワーバランスが崩れにくい品目であること。
他の品目に比べて管理温度が高く、設備投資や燃料費が高いため参入しづらい品目であること。 それと単純にピーマンが好きだからです。

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ズバリ!入塾前と後のギャップ

これまでの知識と経験を持ってシミュレーションすることを目的としていたので、変に過剰な期待をしていたわけではないので、ギャップはありません。自分のように1年間ピーマン農家で研修してから来た人は珍しいようで、同期の塾生はみんなここに来て初めて農業について勉強を始める人達ばかりでした。実践塾では、宮崎県の標準的な栽培指針に基づいた指導がなされます。これは栽培の考え方の一つであって全てではありません、他の考え方もやり方もあります。様々な意見の中から自分なりの答えが導き出せるように、農家さんやJAの指導員、有識者とのネットワークを作っておいて、相談できる体制を作っておくのが良いと思います。

経験値を積み重ねていく大切さ

入塾したことで、一作を通した管理や観察を行い、その結果が見て取れることが大きな経験になっています。また教わった事や本などの知識で知っていたつもりでも、実際にやってみて理解が深まる事や疑問に思うことも出てきます。観察と考察を繰り返してやった事は、良い結果でも良くない結果でも、すべての経験が就農に向けてのメリットだと思います。

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研修で得た数々の貴重な体験

ハウスでの作業は前年の卒塾生が陽熱消毒をした状態で終えているので、陽熱消毒のビニールを剥がす所から始まります。本来であればハウスの準備から定植まで1か月くらいの期間を持って作業出来るのですが、今年はコロナの影響でカリキュラム変更と、8月はずっと雨続きだった影響で作業になかなか取り掛かれずに整地耕運、たい肥と元肥の投入、漉き込み、畝立て、潅水の配管と点滴チューブの設置、植穴の準備など定植までの準備を育苗管理もしながら定植前2週間ですべてをやりきる突貫工事は大変でした。
それと、定植後に中幌や内張りビニールを張る流れだったのですが、人数がいる場合の中幌張りは農家さんの所で経験していたので試しに一人で張ってみましたが、ま~大変でした。ビニールが重くて、一人で端から端まで伸ばしきれず、真ん中で手繰り寄せては端を伸ばし、また中央で手繰り寄せての繰り返しで行ったり来たりと大変な経験をすることができました。綺麗に張るのが難しく、しまいにはボルトに引っかかっているのに気づかずに引っ張って、新品のビニールを大きく裂いてしまい補修する手間もかかってしまいました。
ちなみに他の塾生はこの作業みんなで協力してやっていたので、最初に取り掛かった自分より他の人の方が先に終わっていました(笑)

悩みは自分を成長させるギフト

前作と今作では樹の見方が大きく違います。前作は自分が家主ではないので搔い摘んだ情報で断片的にしか見れていませんでしたが、今作は自分が家主として栽培しているので、主観的にストーリー性を持って樹を見ることができ、細かい日々の変化にも気づけるようになりました。しかし、日々変化に合わせての潅水量や、求めている養分とその量、タイミングなど、まだまだ悩み事は数多くあります。また最善を尽くすためにこうしたいと色々プランを練るものの、時間が足りずタイミングが遅くなってしまったり、出来なかったりなど日々反省しながら、様々な経験を通して大きく成長していきたいです。

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努力と挑戦こそ、目標達成には必要不可欠

県指針として、ピーマンの平均収量が12,000kg/10aですので、実践塾のハウス面積に換算すると4,800kg/4aになります。実践塾の過去最高収量が去年の塾生で4,865kg/4aでしたので、栽培前の目標設定としては5,200kg/4a、10a換算で13,000kgを設定していました。
しかし、栽培が進み11月の状況を見てもっと上を目指せそうなので、目標収量を14,000kg/10aの5,600kg/4aに再設定しました。
1月末時点で2,150kg収量を上げていて、今のペースだけで見ると、15,500kg/10a換算のペースで進んでいます。ですが11月と12月が天候に恵まれていて採れているので、そこを加味して15,000kg/10a換算の6,000kg/4aを最終的に上げるのが努力目標です。

就農に向けた今後の目標

今も栽培と並行して就農活動や打ち合わせを進めていますが、今作の栽培を終えてレポートにまとめたら6月末でみやざき農業実践塾を卒塾になります。7月からは串間に戻って本格的に就農・定植に向けた準備となりますが、9月末~10月上旬定植の目標に向けて、ハウスに関する段取りや資材・備品等の準備、圃場整備や排水性の確保、それと諸々の書類作成なんかもあった上での定植準備で忙しくなりそうです。
串間のピーマン農家で学んだ1年間、みやざき農業実践塾で実際に栽培を経験した1年間、この2年間があってこその結果が就農1年目から収量として出していければと思いますが、複雑に絡み合う栽培環境をそつなくこなせる程の実力もないので、まずはお世話になった方々に心配させない迷惑を掛けない、あいつなら大丈夫と安心してもらえる農家になることを目標に頑張ります。

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